とても便利な調理器具が登場した。
材料を放りこんで、ボタンを押したら、もう完成。レシピも火加減調整もいらない。我が家でも大活躍だ。
ところが「料理人もレストランも終わったな」とまで言われると、胸がざわつく。献立も下味だって、まだある。むしろ、便利になった分だけ、熟練者はもう一段先へいく。これまで手が回らなかったことまで、どんどん洗練させて差がつく。裾野が広がれば、頂上までの距離は遠くなる。
頼まれてもいないのに、ムキになって指摘したくなる。いやいや、それは違う、と袖をひく。ほんとうなら、目くじらを立てる話でもない。台所に立つひとが増えたら、美味しい料理もたくさん生まれる。言葉をなげた本人だって、週末には行きつけの店に足を運ぶだろう。
それでも聞き流せていない。そのうち、じぶんの番がくる。まだ投げられていない言葉に、先回りして拳をかまえている。